2019年10月より、日本国内において「ゲノム食品」の流通が解禁となり、約5年が経過しました。
より良い効果を期待した食品を作る・生産性を向上させる技術として、ゲノム編集技術や遺伝子組み換えといった技術が現代に確立しつつあります。今後の食糧生産や技術発展に大きく影響することから、注目が集まっています。
遺伝子組み換えは聞いたことあったけど、ゲノム編集って何だろう?
ゲノム編集で作られた食品は何があるのな
人体にとって安全な技術なのかな?
まだまだ耳慣れない「ゲノム食品」について、本記事では「遺伝子組み換え食品」との違いを比較し、そのメリットやデメリット、日本で生産されている食品について簡単にまとめました。
今後、私たちの口に入るかもしれない食品について知って、不安に思うことをなくしていきましょう!
ゲノム編集と遺伝子組み換えの違い
初めにゲノム編集や遺伝子組み換えはどう違うのか、その違いについてまとめました。
ゲノム編集は遺伝子の一部を「切り取る」技術
ゲノム編集とは、酵素の「はさみ」を使ってゲノムを構成するDNAを切断し、遺伝子を書き換える技術となっています。農業分野だけでなく医療分野でも注目されているのがゲノム編集という技術になっています。
食品におけるゲノム編集は以下の通りです。
① 人工酵素で特定のDNAを構成する物質や塩基を切り取る
② 生物の持つ修復プログラムによって切れた部分が修復される
③ 修復ミスを起こすことで、塩基の並びが変わる
④ 発現する遺伝子が変わり、生物が持つ性質も変化する
→ 欲しい効果だけ残すことを狙う
似た技術で「品種改良」がありますが、品種改良では改良をして「突然変異」が起きることを待つ必要があります。それに対してゲノム編集は「突然変異」を狙って起こすことも可能となっており、品種改良と似た技術でありながらコストを抑えることができる技術となっています。近年では、DNAを「切らずに書き換える」ゲノム編集技術も開発されており、利用が進められつつあるようです。
品種改良の良いところを取り入れたのが「ゲノム編集」となっています
新しい技術のためまだ発展がありそうです
遺伝子組み換えは新たに遺伝子を「入れ込む」技術
遺伝子組換えは「生物の細胞から有用な性質を持つ遺伝子を取り出し、植物などの細胞の遺伝子に組み込み、新しい性質をもたせること」という意味となっています。
ある特定の病気に対応する遺伝子がない植物に、特定の病気に強い遺伝子を組み込んで、特定の病気に強い植物を新しく作成することが、遺伝子組み換えの例として挙げることができます。
遺伝子組み換えは、ないものを差し込む技術であり、最終的には新しいものを生み出しています。
日本では遺伝子組み換えによって作成された食品等は十分に検査が行われ、健康に害があると判定されたものは排除される仕組み整っています。
トウモロコシや大豆の食品に「遺伝子組み換えでない~」といった記載を見ることができます。
ゲノム食品のメリット・デメリット
品種改良と似た技術でありながら、遺伝子組み換えとは異なる技術であるゲノム編集。
そのゲノム編集によってもたらされるメリットやデメリットを簡単にまとめました。
メリット
低コスト・生産性の向上・高栄養が「ゲノム編集食品」の特徴的なメリットとなっています。
生産時のコストが下がることで、消費者である我々の手に取る際に価格も抑えることができます。品種改良と改良方策が似ているため、安全性もある程度確保されていると言え、加えて高栄養とすることもできるため嬉しい事が多いといった印象を受けます。
切り取るゲノムによって収穫量や成長率などにも手を加えることが可能となっているため、より高栄養で大量生産向きな食品の改良方法となっていくことになると言えます。
デメリット
「完全な安全が保障されていない」「ゲノム編集食品だと知る方法がない」のがゲノム編集で作られた食品のデメリットとなっています。
特に「完全な安全が保障されていない」ことが大きな問題となっています。
ゲノム編集は対象となるゲノムを切り取って有用で必要なゲノムにする技術になります。ゲノムを特定の遺伝子を切り取るのため「人工酵素」を利用しますが、「人工酵素」が狙った遺伝子以外を切断してしまう「オフターゲット」というい事が起きることがあります。狙った遺伝子以外を切断することで新たにアレルゲンが生まれたり、有用な物質を除去してしまったり等の可能性があります。
ゲノム食品の安全性と販売時の対応
メリット・デメリットが多く存在するゲノム食品ですが、その安全性や販売時の表示方法などはどのようになっているのでしょうか?気になる点を簡単にまとめました。
「従来の品種改良食品と同様に安全である」とされている
日本の厚生労働省や消費庁は、ゲノム編集食品を従来の品種改良と同等であるとして、ゲノム編集で生産された食品が安全であるとしています。
・日本の方針としては、「安全」であるという位置づけになっている
・厚生労働省や専門家の確認の元、届出制として認可されたものが市場に並ぶため、安全に関するリスクは大きくないとされている
・具体的な安全性はまだ分かっておらず、完全な安全性は確保されていない
基本的に、品種改良品と変わりがないことから国は安全だとしていますが、具体的な影響などのデータはまだ十分に存在しておらず「一定程度メリットはあるが、安全性についてはまだわかっていない部分も多い」というのが現状となっています。
ゲノムの構造や遺伝子の仕組みが100%解明されたわけではなく、安全とはいいがたい部分もあります。遺伝子を間違って切断してしまった場合などに、有害なアレルゲンが発生してしまったり、有害な物質を除去する働きを逆に取り除いてしまったり等のリスクが内包されています。
私たち消費者は、まだ新しい技術でリスクも多いことを念頭に置いて、食品を選ぶ必要性があると言えます。
販売時に「ゲノム編集食品」と記載する表示義務はまだない
日本において、遺伝子組み換え食品に関しては、「遺伝子組み換え食品のような表示義務」、「安全性調査を受ける義務」が存在していますが、ゲノム編集食品に関してはまだ厳格なチェック体制は作成されていません。
理由は以下の通りとなっています。
<日本でゲノム編集食品のチェック体制がない理由>
・自然界でも起こりうる現象であることである
・突然変異を利用した新種改良と見かけ上で区別ができない
アメリカも日本と同じ理由で検査義務等はないようですが、EUでは遺伝子組み換え食品同様にチェックが行われるべきだと話し合いが行われおり、世界全体的に見てもまだ対応が確定していないのが現状となっているようです。
日本でのゲノム食品の一覧
日本での「ゲノム食品」は、既に流通しているものと実験段階のものに分けられています。
それぞれ簡単にまとめました。
既に流通している「ゲノム食品」の一覧
日本の市場で既に流通が始まっているのは以下の4品となっています。
食品名 | 特徴 |
---|---|
トマト | リラックス効果や血圧上昇抑制する機能のあるGABAを多く含ませたトマト |
マダイ | 魚の筋肉量を増強させて、加食部分を増加させたもの 一匹で多くの量を食べることができる |
トラフグ | 成長速度を速めるように遺伝子を変更することで、食用になるまでの日数を短縮させる |
大豆 ※アメリカからの輸入で日本に流入 | 不飽和脂肪酸であるオレイン酸が多く含有されたもの トランス脂肪酸の過剰摂取を避けて、心筋梗塞などの冠動脈疾患に繋がる可能性を下げることができるとされる |
日本の市場でも出回り始めており、まだまだ生産量は多くないですが、将来私たちの口に入るほど身近になる可能性もある食品となっています。
特に大豆は、味噌や醤油などといった日本特有の調味料にも使われ、多くの加工食品にも利用されるものです。口に直接入らずとも調味料などの形で知らず知らずのうちに取り込んでいる可能性があります。
より健康を目指す目的で作成されるものが多くなっています
実験段階の「ゲノム食品」の一覧
日本では、まだ流通していませんが実験段階であったり研究利用で「ゲノム食品」がいくつか利用・開発されています。その一例を下記に取り上げて簡単にまとめました。
食品名 | 特徴 |
---|---|
イネ | イネの病気である「いもち病」に耐性のあるイネの開発を促進する 収穫量を向上させることで、食糧危機に対応する開発も行われている |
ジャガイモ | 食中毒の原因となる「天然毒素」(ソラニン類)を減らしたジャガイモを開発する 研究利用には既に使用されている |
卵 | 食用としてアレルギー物質の少ない卵を開発する 研究用として、バイオ医療品に必要な「有用たんぱく質」を多く含む卵を開発する |
マグロ | 光の刺激に対して反応が鈍いマグロを開発し、狭い養殖場であってもマグロの死亡率を減らし生産性を高める |
豚肉 | 食肉用の豚に感染するウイルス感染症「豚繁殖・呼吸障害症候群(PRRS)」に耐性のある豚を開発して、食用にできる割合を増やす |
日本の食卓には切り離せないものが多く、その内容は生産性の向上を目的としているものが多数となっています。
自然の資源は限られており、いつ食べられなくなるのか分かりません。また、病気の進化によって食品の生産が追い付かなくなる事態に陥る可能性もあります。このような問題を解決するためのゲノム編集食品は生産性の向上に役に立つ技術であることは間違いがないようです。
いつかは口に入る可能性がある食品たち
将来を見据えて生産性を意識したものが多くなっています
まとめ
・ゲノム編集は「切り取る」技術、遺伝子組み換えは「足し入れる」技術
・ゲノム食品は、完全な安全性はまだ確認されていない
・販売時にゲノム編集された食品であることを表示する義務はない
・日本では「トマト」「真鯛」「大豆」が既に流通しており他の食品についても研究されている
「ゲノム編集」はまだまだ新しい技術で、メリットも多くありこれからの食糧問題を解決する一手となっています。
しかし、デメリットもまだまだ多く、何が問題であるのか消費者である私たちがしっかりと認識したうえで、商品を選ぶことが重要となっていきます。
ゲノム食品い対する国の対応を見守り、今後の動向をしっかりと確認して、自身の健康や家族の健康を守り、より良く生活をしていくために必要な情報を正しく理解して活用できるようになりたいですね!
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